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書評:『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』

書評
・概略
 脳科学的見地から、「紙の本」と「デジタル」とでの読字のプロセスの違いやメリット・デメリット、更には両者のいい所をとった次世代の読字脳についての可能性の示唆を述べた本。
 なんで紙の本の方が「深い読み」をしやすいのか?なんでデジタルじゃイマイチなのかについて説得力のある説明をしている。
 また読書の喜びについての著者の思いも溢れている。
 著者は、紙でもデジタルでも、媒体を問わず上手に読めることができる脳(バイリテラシー脳)を育てることを理想をしている。
 ただしその具体的な方法はまだ途中のようで、この本では示唆にとどまっている。
 
・人類は誕生時から字が読めた訳ではない
「読字能力」は、人間に生得的に備わった機能ではない。
すなわち、人間は、言葉を発する能力のための脳回路は先天的に備わっているが、読字能力のための脳回路(読字脳)を最初から備えてはいない。
幼い脳は読字のための回路をもたないので、人間は幼少期においては絵本の読み聞かせで読字を学び、しだいに紙の本で読書をすることで読字能力を磨いていく。そして注意深い読書により知見を得る「深い読み」が可能となる(だから絵本の読み聞かせはとても重要なのだ)。
 
・「読字脳」が人類を変えた
読字が脳の回路自体を作り変えることは、読字が思考の本質をも変えることを意味する。
読字はわずか6000年の間で人類の文化の知的発展の触媒となった。
(より詳しくは、この著者の前作『プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?』)
 
・「読字脳」のパラダイムシフト
僕たちは「読字脳」の歴史的な大転換期に生きている。
デジタルデバイスの出現だ。これは口承文化から書記文化への移行に匹敵する転換だと著者は言う。
しかし、印刷でなくデジタル画面で本を読んだ場合、読み飛ばしや斜め読みで読まれやすく、紙の本で読んだ場合と比べて細部の理解度が低下する傾向があるという研究結果がある。
一般的に「深い読み」は紙の本が適しているためだ。
 
・なんで「深い読み」には紙の本がいいのか?
 その大きな理由は「物性」である。
 紙の本は、ページに印刷されたモノであるため、読者は本の内容を時間的・空間的に位置づけて認識しやすい。
つまり、実際のページの進み具合や、何がどこに書いてあり、それらがどう関連するかを物理的な次元で実感できるし、時には戻ったり、パラパラページをめくりふと止めて熟読したり…そういうことをしやすい。それが細部を大きな全体像に位置づけることを助け、ひいては理解を助けるのだ。
 
・デジタルで読むことのデメリット
 一方、デジタルで読む場合では、時間的・空間的な位置付けは全て概念的なものとなる。だから、細部を大きな全体像に位置づけにくい。
 また、デジタル画面を通して得る情報はデータ量が多くなりがちである。そんな膨大なデータの全ては処理しきれないため、現代人は、結果的に情報を読み飛ばす癖がついてしまっている。これが「デジタル読みモード」だ。
 著者の実験によれば、デジタルで読むことに慣れた場合、紙の本を読む場合でも「デジタル読みモード」で読んでしまいがちになり、かつてのような「深い読み」を行いにくくなってしまうという。
 また、幼少期に過剰にデジタルに触れることは、子供の注意力の低下を促すことがわかっている。
 
・デジタル時代の子育て(紙とデジタルの両立)
 しかし現代においてデジタルによる情報収集は不可欠だ。
 この本でも別にデジタルで読むことを否定しているわけではない。これからの子育てにおいて、紙とデジタルの両立を図ることを推奨している。
 0~2歳 まずは紙の絵本で読み聞かせをし、「読字脳」の下地をつくる。
 2~5歳 紙の絵本で読み聞かせを継続し、「デジタル読みモード」に設定される前に本を通して物語から得られる知見を伝える。デジタルは程々(2時間以内)
 5~10歳 この頃子供達は自分で読むことを覚え始める。ただし、これにはばらつきがあるので焦らずに。
 
・バイリテラシー脳を育てる
 著者は、媒体を問わず上手に読めることができる脳を育てることを理想をしている。
 結局、「デジタルで読むことのデメリット」は、「デジタル読みモード」の特性を何にでも当てはめる癖がついて、紙の本で読むときにも「デジタル読みモード」がにじみ出てしまうことがが問題なのだ。
 従って、「デジタルに適した脳回路」と、「紙の本で深く読むことに適した脳回路」と、を上手に切り替えるような脳回路(バイリテラシー脳)が形成されることが望ましい。
 イメージは、それぞれ異なる言語で話す両親に育てられ、2つの言語モードを瞬時に切り替えることのできるバイリンガル子供である。
 
・その他 感想
 著者は、適切な時期に適切な教育(従来の読み書きに加えてプログラミングスキルなど)を実施することで、紙とデジタルの両方の脳回路を発達させて、バイリテラシー脳を形成する学習プロジェクトを推進している。
 つまり途中なのだ。だから、この本では、読者が気になるところであるバイリテラシー脳を育てる具体策については示唆にとどまっている。
 一応、開発中のデジタルデバイスの一例として、子供が画面の単語をタッチするとデバイスがそれを読み上げたり視覚イメージが浮かんだりするような、文字とインタラクティブに遊べるものが紹介されたりしている。でも、こんなのって特に目新しいものでもないような気がする。
 
 あと、著者は最後のあたりで、バイリテラシー脳を持つ次世代に期待される特性について、”たとえば電子メールのためにはより速い「軽い読み」モードを使い、もっと深刻な素材のためには、おそらくたいていは文章をプリントアウトすることによって、深い読みモードを使うでしょう。”と言う。
 
 …えーなんか普通だな、これくらいみんなやってることでは?著者が期待するバイリテラシー脳の特性ってこんなもの?と思ってしまった。
 
それでも、この本が読書や読字脳の新たな知見と、そのための説得力のある裏付けに満ちた本であることに変わりはなく、読書家に、親に、教育者におすすめの一冊だと思う。

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